抜歯後そのままにして大丈夫?問題点と治療について

こんにちは。
28CliniC 野上歯科医院 歯科医師の柳あさこです。
突然ですが、みなさんご自身のお口の中の歯の本数はご存知でしょうか。
親知らずを除く上下14本ずつ、合計28本の歯がありますか? (生まれつき一部の歯がない先天欠損、矯正治療のための抜歯を除きます)。
抜歯の経験がある方は28本よりも少ない本数だと思います。

抜歯後、失った歯を補う治療はありましたか?
歯科治療で「補綴」(ほてつ)という言葉をよく耳にすると思います。
補綴とは問題のある部分を人工物で補うことを指します。
つまり「欠損補綴」とは、歯を失った部分を人工物で補い噛み合わせを回復させることを指します。

今日はそんな「欠損補綴」について詳しくお話しさせていただきます。


【この記事のトピック】

Ⅰ. 欠損したままだと、どうしてダメなの?
抜歯したまま放置することによる影響を細かく分析しています。
Ⅱ. 欠損補綴治療の種類
ブリッジ、入れ歯、インプラント、移植について解説します。
Ⅲ. 治療のタイミング・選択に関して



Ⅰ. 欠損したままだと、どうしてダメなの?

先ほどお伝えした通り、ヒトの歯は親知らずを除く上下14本ずつ、合計28本の歯が全て
揃っていると理想的な状態です(先天欠損、矯正治療のための抜歯を除く)。

しかし、部分的に歯を失っている状態で当院に初診来院される方も見受けられます。
抜歯になった原因は何でしたか?と聞くと、重度の虫歯や歯周病、根が割れてしまった等、様々な答えが返ってきます。

虫歯による抜歯で最も多いのは6番目の歯を抜歯されているケースです。
「6歳臼歯」と呼ばれ6歳頃から長い間口腔内で活躍する歯です。
子供の頃の食習慣、歯磨き習慣が思わしくなく、6番目の歯を大きな虫歯にされてしまう方がいらっしゃいます。
歯周病による抜歯の場合は、1歯にとどまらず、連続して複数本抜歯になっていらっしゃるケースもあります。

では、なぜ抜いた後そのままの状態でいらっしゃったのですか?と聞いてみると
「忙しくて通院できなかった」
「費用面から諦めた」
「抜歯して痛みがなくなったから良しとした」
「抜いた後治療が必要だと歯科医師から説明されなかった」
といったお声を伺うことが多いです。
その中で圧倒的に多い理由は
生活に不自由していないし、そのまま放置したら弊害があると知らなかった」
だと感じられます。

確かに歯を抜いてそのままにしておいても、痛みが出るわけでも、腫れるわけでもありません。
実際、奥歯が1本抜歯になったとしても、大きく口を開けなければ見た目に違和感も有りませんし、食事も会話も不自由はしないかもしれません。
むしろ痛みを伴い保存不可能な状態からの抜歯の場合、痛みから解放されて喜ばしいと思う方もいらっしゃると思います。
そのような理由から、放置してしまう方が多くいらっしゃるのです。

しかし、そのままにしておくと様々な問題が出てきます。それはすぐに起きるものではありませんが、じわじわと時間をかけて、最終的に大きなトラブルとなって襲いかかってくる可能性があります。
歯は指のように1本1本独自に動くことはありませんが1本1本に役割があり、それぞれが役割を果たすことでお口全体が機能し、バランスが取れているのです。

歯の欠損が年月をかけて、口腔内全体をどのように悪化させてしまうかをみていきましょう。


〜機能的な面から〜

(1)対合歯の挺出 (抜けた歯と噛み合っていた歯が抜けた歯のスペースに伸びてくる)
上下の歯は互いから絶えず刺激を受け続けることによってその場に留まっています。
しかし抜歯により刺激を受けることがなくなってしまうと、空いたスペースに伸びてきてしまいます。
「伸びてくる」とは、歯の長さが長くなるのではなく、骨の中に埋まっていた歯根ごと出てくることを意味しています。長い年月をかけて反対の歯茎まで伸びてきてしまうこともあります。
露出してしまった歯根はエナメル質に覆われておらず歯の中でも比較的柔らかい組織です。虫歯になりやすく、知覚過敏の症状を引き起こしやすい部位でもあります。

(2)隣接歯の傾斜 (抜けた歯の両隣の歯が抜けた歯のスペースに動き、傾いてくる)
例えば5番目の歯を抜歯してそのまま放置した場合、6番目の歯が手前に傾いてきます。
そのまま長期間放置しておくとさらに奥の歯も傾いてきます。
傾いてしまった歯を元に戻し、正しいスペースに戻すためには全体的な矯正治療が必要となります。

(3)噛み合わせの変化
対合歯の挺出、隣接歯の傾斜により噛み合わせのバランスが崩れ、不調和が起こります。
噛み合わせの変化により顎の位置自体が偏位し、顎関節に症状が出る場合もあります。

(4)歯の破折
人の口の中には上下左右2本ずつ、合計8本の大きな奥歯(大臼歯)があります。
一部の大臼歯の噛み合わせがなくなることによって、他の残った大臼歯に過度な負担がかかり、歯が割れてしまうことがあります。


〜生活の面から〜

(1) 姿勢の変化、体の不調
噛み合わせの変化から顎の位置にズレが生じ、頭蓋骨の位置にまで影響を及ぼすことがあります。
頭は体の中で一番重く、5〜6キロあります。頭蓋骨の位置に偏りが生じると、重い頭を支えるために一部の筋肉が緊張し肩こり、首こり、背中の張りなど、体のだるさが生じる場合があります。姿勢の悪化にもつながります。

(2) 咀嚼障害
噛み合わせの変化により食べ物を上手く咀嚼できない状態が続くと、胃腸に負担がかかります。

(3) 滑舌が悪くなる
歯のない部分から空気が漏れ、発音が不明瞭になることがあります。


〜審美の面から〜

(1) 見た目が悪くなる
機能面でお伝えした歯の挺出、傾斜により、見た目が悪化します。

(2) 歯茎の位置が下がる
歯の根の周りで歯を支えていた骨(歯槽骨)が機能しなくなり、高さ・幅共に骨量が減少してしまいます。すると歯槽骨の周りにある歯茎の位置も下がります。

(3) 顔の輪郭が変化したり、シワが増える
歯の喪失、歯槽骨の減少、歯茎の低下によって頬がこけて見えてしまうことがあります。
また、前歯部の場合は口元のボリュームが減り法令線が深くなります。
年齢よりも高齢に見られてしまう可能性があります。


機能面、生活面、審美面から分析してみました。みなさんどう思われましたか?
当院は、質の高い予防と治療を提供することで最終的に皆さんの健康寿命の延伸に貢献できるよう日々診療を続けております。
昨今は医療の進歩により、年々寿命は伸びる傾向にあります。天寿を全うする瞬間まで、ご自身の歯でお食事をし、歯を見せて笑い、滑舌良くお話をしていただきたいと考えております。
もし抜歯後そのまま放置してしまった…心当たりのある方は早めに治療を検討されてください。



Ⅱ 欠損補綴治療の種類
治療法は大きく分けて4つあります。
(1)ブリッジ
(2)義歯(入れ歯)
(3)インプラント
(4)移植

1つずつ詳しく紹介いたします。


(1)ブリッジ
歯が1~2本なくなった時に、両隣の歯を支えとして人工の歯を橋のように架けるものをブリッジといいます。

1) ブリッジの材質
金属やジルコニア(人工ダイヤモンドの素材)といった丈夫で硬いフレームの上に、陶材を盛り上げて審美的に優れたブリッジを提供いたします。
噛み合わせの上下幅が少ない部分は、力学的な観点からフレームのみの設計とし、故障の少ない、長年安心して使用していただける形態にすることも可能です。

2) ブリッジの利点欠点
【利点】
・セメントで接着するため、普段取り外して管理する必要がない
これは入れ歯と大きく異なる点です。
・短期間で治療が完了する場合ことが多い。
インプラント、入れ歯と比べると治療のステップは少ないです。

【欠点】
・両隣の支台となる歯を削るor被せ物を外す必要あり
両隣が例え虫歯でないとしても、被せ物を装着するために削る必要があります。
また両隣の歯に被せ物が入っている場合は壊して外します。
・支台となる歯に圧力が集中し、破折等のリスクあり
例えば3本連続したブリッジで、真ん中の歯が欠損している場合、本来3本で支えていた歯を2本で支えることになります。従来よりも応力が集中します。
・ブリッジ周囲の清掃はテクニック必要
ダミーの歯が歯茎と接する面、支台の歯の周囲の清掃はテクニックが必要です。
支台歯をうまく清掃できない場合、齲蝕や歯周病に罹患するリスクがあります。

3) 治療のステップ
①口腔内の型取り、ブリッジの設計

②支台となる両隣の歯を削る、型取り、噛み合わせ位置の記録、仮歯の作製
削る歯が生活歯(神経のある歯)の場合は、麻酔を行い痛みのない状態で作業を行います。
ブリッジの部分の型取り、噛み合わせの記録には精度の良いシリコンを用いています。
ブリッジが出来上がるまでの間、仮歯にてお食事をしていた
だきます。

③ブリッジの完成、装着
必要に応じて麻酔を行います。支台歯の清掃・消毒を行った後に、最新の接着性レジンセメント(大変強固なセメント)を用いて装着いたします。

④経過の確認
装着後の経過をお教えください。必要に応じて細かな調整を行います。
また、メインテナンス時に歯科衛生士が補綴物の確認をいたします。


(2)義歯(入れ歯)
複数の歯〜全ての歯を失ってしまった場合、取り外し式の義歯を作成します。
残存歯の有無で部分床義歯(部分入れ歯)と全部床義歯(総入れ歯)に分けられます。

〜部分床義歯とは〜
部分的な歯の喪失を補うために用いられる補綴装置で、周囲の歯を用いて安定させる。

〜全部床義歯とは〜
全ての歯を失ってしまった時に用いられる補綴装置で、口の中の歯ぐき・粘膜で安定させる。
インプラントを用いてより強固に固定することもあります。

1) 義歯の材質
1. 歯の部分
レジンと呼ばれる樹脂や、陶材を用います。

2. 粘膜部分
外から見える粘膜の部分はピンク色のレジン(樹脂)を用います。
しかしレジンはある程度の厚みがないと耐久性に乏しい材料です。
厚みがあると口の中の異物感が増えてしまいます。
対策として、薄く伸ばすことができ耐久性も良い金属材料で一部置換することも可能です。金属は薄いだけではなく熱伝導もよく、食事の温かさ、冷たさをより繊細に感じることができるため、自然な口腔内の感覚に近づきます。

3. 支える部分
部分入れ歯:金属のバネ、金属のバー、特殊なレジンのバネなど
全部入れ歯:基本的に粘膜に吸着させるため、支える装置を持ちません。インプラントを併用し支える装置を作ることが可能です。

2) 義歯の利点欠点
【利点】
・取り外して清掃や細かな修理が可能。
・多数歯の欠損に対応できる。
・ブリッジのように支台歯を大きく削る必要がない。

【欠点】
・バネが見えてしまうことがある。
・バネをかける歯への負担増加により、揺れ等が生じる場合がある。
・毎日ご自身で取り外して洗浄、消毒が必須。
怠った場合、入れ歯が細菌感染の温床となるリスクがある。
・発音のし辛さや異物感が残る事がある。

3) 治療のステップ
① 設計、相談
どのような義歯にするか細かな相談を行います。

②型取り
作る入れ歯の種類に合わせて、1〜2回型取りを行います。

③噛み合わせ位置の記録
蝋燭の材料やシリコンを用いて、噛み合わせを記録していきます。

④試適
実際に歯を並べ、その位置で正しいかを確認します。

⑤義歯の完成、装着
完成した義歯の1回目の調整を行い、取り扱いのお話をさせていただきます。

⑥調整
装着後の経過をお教えください。細かな調整を行います。
調整を何回か行うことでより使いやすい入れ歯に仕上がります。


(3)インプラント
歯根を失ってしまった部分に人工の根(インプラント体)を埋め込み、その上に被せ物を装着します。

1) インプラントはどのようなケースで有利なのか
インプラントは固定源を周りの歯に依存しません。つまり、隣在歯を削る・バネをかける等を必要とせず、独立した歯として機能します。

2) インプラントの材質
歯の根:「インプラント体」と呼ばれるチタン製の人工歯根
歯:金属のフレームに陶材を盛り上げて美しく仕上げています。

3) インプラントの利点欠点
【利点】
・人工の材料を用いて、抜歯前の状態に限りなく近い回復が可能
・隣の歯を削る必要がない
・定期的なメインテナンスの実施により長期にわたり安定した経過を辿ることが多い
【欠点】
・治療期間が数ヶ月に渡る

4) 治療のステップ
抜歯後すぐに行う場合も、抜歯して期間があいた後に行うことも可能です。
しかし歯の喪失により周りの骨が減少する場合があります。よって抜歯後すぐに処置を行う場合が多いです。

①レントゲン撮影、C T撮影
インプラント処置部位の骨の厚みや幅を確認する

②1次手術
1.(罹患歯が残っている場合、抜歯)
2.ドリルにてインプラント体に合わせたホール(穴)を形成
3.骨の幅や高さが足りない場合、骨を増やすための処置
4.インプラント体の埋入
5.縫合
6.レントゲン撮影
欠損の量によっては、セットまでの期間、一度義歯を作成する場合もあります

③2次手術(1次手術から4ヶ月後くらい)
1.粘膜形態の調整を行う。
2.インプラント体の接続口を露出させる
3.接続口に型取りのための装置を取り付ける
4.型取りを行う
5.インプラントのネジ部から型どりのための装置を取り出し、キャップをつける

④セット日
1.キャップを取り外す
2.出来上がってきた補綴を調整し、装着する

5) 当院のこだわり
当院ではインプラントの美しさや機能性はもちろんのこと、予後を考え清掃しやすい粘膜形態の回復を重視しています。どんなに美しくても、清掃・メインテナンスしづらい状態では長期予後は見込めません。


(4)移植
移植はご自身の親知らずなど上手く機能できていない歯をドナー歯として抜歯し、欠損
した部位に植えることを指します。「補綴」とは人工物で補うことを指すため、厳密に言
えば欠損補綴には含まれませんが、失った歯を回復させる処置として紹介をさせていただ
きます。

1) 移植治療はどのようなケースで有利なのか
移植治療は人工物を用いず自身の歯牙を用いて欠損部を回復できます。もともとご自身の健康な歯があった状態に限りなく近い環境に戻すことができます。また、ブリッジは部分入れ歯で生じるような諸問題は起きません。インプラント に用いられる金属チタンはアレルギーの起きにくい金属ではありますが、チタンのアレルギーの方に
も不安なく実施していただけます。
移植のドナー歯は、歯が植っている骨から一度取り出すため、神経は死んでしまいます。よって根の治療が必要になります。しかし根っこがまだ完成していない歯を移植する場合(高校生〜大学卒業くらい)、そのまま神経を残すことができるケースもあります。

当院では無闇に親知らずの抜歯を勧めることはありません。もちろん、磨きにくい部
位にあり将来歯周病が悪化する可能性、噛み合わせに不具合が生じる可能性のある場
合、すでに治療できないほど大きな虫歯や歯周病で痛みが出ている場合は抜歯のご案
内をします。しかし全歯牙の診察をさせていただき、抜歯のリスクとなる歯牙が存在
している場合、将来ドナー歯となってもらう可能性を踏まえて親知らずを積極的に残
す場合もあります。

2) 移植治療の利点欠点
【利点】
・抜歯前の状態に限りなく近い回復が可能
・人工物を使わない

【欠点】
・移植終了後、数ヶ月にわたって骨との生着を確認するため経過観察が必要
・生着しない場合がある
・根の治療が一般的に必要

3) 治療のステップ
①レントゲンやC Tによる骨、歯のサイズの確認
②重度齲蝕や破折等、罹患歯牙の抜歯
③ドナー歯の抜歯
ドナー歯は抜歯後、滅菌された環境で生理食塩水の中で保管します。
④ドナー歯の大きさに合わせ、抜歯した窩洞(穴)を調整
⑤ドナー歯を植える
⑥固定
ワイヤーや糸を使用します。
⑦経過の確認、レントゲンの撮影(数ヶ月後ごとに行います)
⑧根の治療
⑨補綴(行わない場合の方が多いです)
当院では罹患部位の抜歯と同日に歯牙移植を行うことが多いですが、すでに罹患部位
の抜歯は済ませ、数年経過している場合でも対応することができます。



Ⅲ. 治療のタイミング・選択に関して

「これは抜歯です」と歯医者さんで言われたけれど、まだ抜歯していない場合….
まずはその歯を残せる手段はないのか、残すことによってどのような弊害が生じる可能
性があるのか(何がなんでも無理やり残すことはお勧めできません)確認をし、納得した上
で抜歯に進むべきだと思います。
また、ケースによっては抜歯と同時に歯を回復させるための処置を(移植やインプラントなど)行った方が良い予後を期待できる場合もあります。抜歯の前にその後の処置を確認しましょう。
いつから開始するのか、どれくらいの期間がかかるのか、費用の面も含め、目処が立ってから抜歯に踏み切ることをお勧めしています。

すでに抜歯して時間が経過してしまっている場合…
少しでも早く、ご相談ください。抜歯後早めにご相談いただいた場合、治療にかかる期間や費用を抑えられることがあります。
十数年、数十年経過してしまった方へ。当院ではどんなに歯が動いてしまっていても、最善の治療をご提案することが可能です。諦めずにご相談ください。

ご予約はお電話またはメールにて受け付けております。
28CliniC/野上歯科医院 TEL:048-521-1333      Mail:info@28clinic.jp

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