前回、オーラルフレイルの概要についてお話しました。
流れは以下のようになります。
①口の健康リテラシーの低下
②口のささいなトラブル
③口の機能低下
④食べる機能の障がい
環境の変化などでお口への関心がさがることで歯を失うなどし、飲み込みづらい食品が増えたり、口腔周囲筋の機能低下で食べこぼしが多くなったり少しずつ、お口の機能が下がっていきます。
最終的に噛むことも飲み込むことも困難になります。
では、それをどうやって評価するのか?
今回は、口腔機能の評価についてオーラルフレイルマニュアルから抜粋して、さらに噛み砕いてお伝えします。
口腔機能の評価の項目は大きく分けて5つあります。
1、個別の口腔機能の評価
2、咀嚼の評価
3、嚥下の評価
4、全身状態、生活状態の把握
5、口腔環境の評価
そのままだとわかりづらいので、さらに詳しく説明していきます。
これを知っておくと、今の自分の状態と照らし合わせて確認しやすくなります。
もっと詳しく知りたいという方は日本歯科医師会のホームページからオーラルフレイルのマニュアルを確認できます。
1、個別の口腔機能の評価
お口周りの運動機能を評価します。
①可動域・運動
お口周りの運動を通して唇、頬、舌、軟口蓋(上顎の喉に近い場所)の可動域、速さ、巧みさ、耐久性を確認します。
Ⅰ:口唇・頬
お口の中に空気を溜めて頬を膨らませます。そのときに息が漏れると唇を閉じる筋力の低下が疑われます。
「いーうー」と発音し、どれくれい筋肉が動くか、また速さを確認します。
Ⅱ:舌
舌を「べ〜」と出して左右で偏位がないか、舌が下唇を越えて出ているか評価するベロを出して左右の口角に触れられるか評価する
②巧緻性・構音
「パ・タ・カ」をそれぞれ5秒間か10秒間で発音してもらい、1秒間の発音回数を確認します。
1秒間に4回以上発音できると健常とされています。
また同時に、発音する際の巧みさや音の明瞭さを評価します。
「パ」:発音する際に唇を閉じられているか
「タ」:発音する際に舌の先を上顎に持ち上がっているか
「カ」:発音する際に舌の奥を持ち上がっているか
③筋力・力
筋力低下がないか確認します。
・頬の膨らませてもらい、張りの強さを触診します。
・舌圧子(ぜつあっし)で舌を押さえ、「ベー」をしたり、上に持ち上げる抵抗運動をおこなって強さを確認します。
・舌を口腔内で弾いて音を鳴らし、音がハッキリしているか大きいかなどで確認します
④味覚・感覚
味覚の低下は唾液量が少なくなったり、体内の亜鉛が不足したり、お口の衛生状態が悪くなったりすると起きることがあります。
⑤咬合接触関係
噛み合わせが安定しているかどうかです。人によって「どこで噛んだら良いのか分からない」など、噛み合わせが安定しない方が少なからずいらっしゃいます。
⑥下顎位・下顎運動
下顎位(かがくい)というのは下アゴの位置のこと。下アゴのズレや運動範囲を確認します。
⑦咬合力
咬む力のことです。
2、咀嚼の評価
①摂食場面の観察
オーラルフレイの状態では正常な咀嚼運動ができていないので舌や筋肉の動きを確認します。
②摂食可能食品
③粉砕・咬断能力
④混和・混合能力
⑤食塊形成能力
食物を咀嚼し細かくなるにつれて、お口の中では唾液と混ぜ合わせて塊を舌で作っていますが舌の動きに問題があると、それがうまくできず、いくら咀嚼してもお口の中でバラバラになってお口の中に広がってしまいます。
3、嚥下の評価
①摂食場面の観察
②主観的評価
③簡易検査
④精密検査
⑤総合評価
4、全身状態、生活状態の把握
オーラルフレイルはお口の問題だけでなく、その方の生活環境や全身の状態にも深く関わっているのでコレを確認することは非常に重要です。
①疾病・服薬
高齢者の方は複数の持病をお持ちの方もいて薬も多く飲んでいる場合があります。お薬の種類によっては、歯科での外科処置ができなかったり口腔乾燥、歯肉増殖などの副作用のあるので要注意です。
②意識レベル・認知機能
③バイタルサイン
血圧、心拍数、呼吸数、 体温、意識などのことです。歯科の治療であってもモニタリングしながらおこなうことがあります。
④ADL・姿勢
ADLとは日常生活動作といって、基本的・手段的に別れます。基本的日常生活動作の評価は以下のBarthel Index で評価することが多いです。
Ⅰ:食事
Ⅱ:車椅子からベッドへの移動
Ⅲ:整容
Ⅳ:トイレ動作
Ⅴ:入浴
Ⅵ:歩行
Ⅶ:階段昇降
Ⅷ:着替え
Ⅸ:排便コントロール
Ⅹ:排尿コントロール
上記の項目が「自立・部分介助・介助」に分けて数値化するものです。
手段的日常生活動作というのは「電話をかける」「買い物に行く」などより複雑な日常動作のことです。
姿勢も非常に重要で、食事中に頭位(頭の位置)を保持できなければ飲み込むことも難しくなります。
試してみてください。
頭が前屈した(うつむいた)状態で飲み込もうとしても難しいですよね?
⑤筋力・麻痺
オーラルフレイルでは表情筋、口輪筋に加えて舌を動かす筋肉が注目されがちですが、実際は全身の筋力が重要で、例えば食事をする際もお口周りの筋肉はもちろん、頭を支える筋肉、座るのを維持する為の筋肉など、いたる場所の筋肉を使えないと食事もままならない状態になります。
⑥呼吸・発声
呼吸器疾患があると呼吸機能も低下しますが、誤嚥時の咳嗽反射(むせる反射)機能も低下するため注意が必要です。むせる反射が弱くなると誤嚥性肺炎など重篤な疾患につながる可能性があります。
⑦栄養・食事
基本の栄養評価は体重・BMI・体重減少率などです。当院では血液検査など違った視点から低栄養状態を評価しています。
⑧居住環境・家族・運動・健康リテラシー・社会活動・経済状況
高齢者の場合、上記のような環境の変化がフレイルに直結することがあるので要注意です。
5、口腔環境の評価
口腔衛生、唾液、歯、粘膜の状態。要はお口の中がキレイで虫歯や歯周病に加えて粘膜の疾患などが無いかどうかの評価です。
①プラーク・舌苔
プラークは歯だけでなく舌などの粘膜にも付着します。
デンタルプラークは食べカスではありません。お口の中で増殖した細菌の集合体です。
舌苔というのは舌の表面に食べカスなどのタンパクや剥がれ落ちた粘膜、細菌など張り付いて、白っぽく(または黄色っぽく)見えます。
この場合、舌の機能低下の可能性も考えられます。
まれに黒っぽく見える場合があります。
これは「黒毛舌(こくもうぜつ)」と呼ばれ、抗菌薬などの長期投与により菌交代現象が起こってカンジダ(カビの一種)などの菌が増えている証拠です。
②口腔乾燥・流涎(りゅうぜん)
唾液はお口の中の汚れを洗い流してくれる物理的な機能だけでなく、消化を助ける酵素を含んでいたり、細菌などから体を守る抗菌作用があったり様々な作用があります。
唾液の量は加齢とともに減少します。唾液が少ないと、お口が乾くだけでなく口臭の原因になったり、食事をうまく飲み込めなかったり、入れ歯を使用している場合は粘膜と入れ歯が擦れて痛みが出たりと様々な問題を引き起こします。
③口臭
お口の中のプラーク量が多かったり、上記のように唾液が少ないこともあります。
④口腔清掃の自立度
歯磨きを自分でできるかどうかの評価です。
⑤歯・義歯・歯肉・粘膜・顎骨・顎関節の評価
通常、歯科でおこなう検査で評価します。
⑥口腔環境の包括的評価
どうでしたか?
こんなに多くの評価項目があることに驚きですよね?
実際にここまでやらなくても、オーラルフレイルの評価や判断はできますが、お口だけでなく、身体的な内容、生活環境まで関わっているということがおわかりいただけたでしょうか?
次回はオーラルフレイルと小児矯正についてお話しする予定です。
ではまた!