連載【28CliniCの標準治療】第3回:しっかり「噛める」ってどういうこと?

皆さんこんにちは。いつも28CliniCブログをお読みいただき、ありがとうございます。
青山院・副院長 および 熊谷院・診療主任 の柳あさこと申します。

前回は、「良い歯医者さん」についてと当院の「予防」の概念についてご紹介をさせていただきました。
第2回はこちら

お口の中の細菌が減って口腔内環境が整った後、ようやく治療のご案内となります。
実際の「治療」に関して徐々に話を進めてまいりたいと思います。

今回のテーマは、「噛み合わせ」です。

目次
1,噛み合わせが「良い」ってどういうこと
2,顎の位置と、歯の位置をどう考えるか
3,噛み合わせが変化してしまう原因は
4,噛み合わせの治療について
5,治療前の「口腔内全体検査」の重要性


1,噛み合わせが「良い」ってどういうこと

「いい噛み合わせ、ってどういうのをイメージされてますか」
よく患者さんにお伺いしてます。
いただく回答は、

a,歯が綺麗に並んでたら「良い」
b,顎に痛みがなくて、お口がしっかり開けば「良い」
c,よく噛めて食べ物がうまく小さく潰せたら「良い」
こんな感じが多いかと思います。

a,は主に審美面を気にする患者さんからの回答です。
ガタガタしてなくて、綺麗に隣同士並んでいて、受け口でなくて、上の歯が頬側、下の歯が舌側にあれば「良い」のではないかといった意見です。

b,は「顎関節症」を気にする患者さんからの回答です。
顎関節症とは、顎骨、関節の軟骨、靭帯などの周囲組織、筋、噛むために使う筋肉などの症状により、顎本来の働きができなかったり痛みが出たりする症状の総称を指します。顎関節症により日常の生活に支障がなければ「良い」という意見です。

c,は機能面から見た回答です。
食べ物をうまく咀嚼できて、かつ発音の障害(歯の位置は発音に大きく関わります)もなければ「良い」という意見です。

上記のa,b,c,どれも間違いではありません。
「噛み合わせが良い」とはすごく抽象的な考えなのです。
審美も、機能も満たし、かつ病的な症状がないことは理想的な状態です。


2,顎の位置と、歯の位置をどう考えるか

では当院の「噛み合わせ」の考えについてお話をさせていただきます。
当院では顎位診断において「顎の正しい位置」と「歯の位置」を分けて考えます。

下顎骨の「下顎頭」という突起は、頭蓋骨のくぼみに嵌っています。
下顎頭と頭蓋骨の間には、「関節円板」という軟骨の組織が介在し、その周りに沢山の靭帯が存在しています。
骨と骨の間に軟骨があって、周りは靭帯で固まっているのは膝や肘といった体の関節と同じです。

実は、これらの「下顎頭」や「関節円板」などが頭蓋骨のくぼみと、どのように接しているのが「良い」のかについて、長い歴史の中で沢山の著名な先生方が色々な理論を提唱されています。
専門的な用語で言うと「中心位」という考え方です。
当院ではこの「中心位」を顎位診断において確認しております。

みなさんは「イーと噛んでください」と言われたら、上と下の歯が一番接触し安定するところで噛んでくださると思います。
その「イーの位置」と「中心位」にどれくらいズレがあるかを確認しているのです。
ズレていたら絶対に良くない、というわけではありません。
これにはさまざまな学説があり、歴史上、沢山の先生が様々な理論を提唱されています。
ズレていたら絶対に良くない、とする理論もありますし、○○mmまでは生理的範囲内で、許容しましょうと唱える理論もあります。
そもそも「中心位」という概念すらも歴史上ずっと論議が続いていて、まだ結論が出ていない歯科界の「永遠のテーマ」なのです。

噛み合わせとはそれくらい奥深いものなのです。
当院は、この差が許容の範囲内で機能的に大きな問題がなければ、積極的な治療をするべきだとは考えておりません。
その治療をすることで本当に「患者さんの生涯にとって利益になる」と判断した場合にご案内をさせていただいてます。

また、「イーの位置」と「中心位」にズレはないけど、「前歯が噛んでいない」ケースなどもあります。
専門用語で「開咬」と言います。前歯部が噛んでいないため、前歯で食べ物は噛みきれない状態です。
上下の犬歯(3番目の歯)は噛む時の「ガイド」になり、道標の役割を果たしています。
犬歯も噛んでいない場合、奥歯の負担が強く、患者さんによっては既にエナメル質に亀裂が入っているケースなどもあります。
現状で症状はなくても、後々トラブルの原因になる可能性は否めません。

このように、噛み合わせのチェックポイントは沢山存在しています。
大事なのは検査・診断をすることです。
それ無しでは、始まりません。


3,噛み合わせが変化してしまう原因は

原因には、生まれながらにある先天性のものと、後天性のものがあります。

○先天性の原因
・大人の歯が元々欠損している
・顎骨の発達に偏りがある(口周り舌の筋肉の発達も関係しています)  など

○後天性の原因
・抜歯した後そのまま放置して、周りの歯の位置が変わってしまった
・歯軋りが強く、歯がすり減ってしまった
・歯周病により、歯の位置が変わってしまった
・歯と歯の間の虫歯により、歯の位置が変わってしまった       など

これらの原因によって、歯の位置にズレが生じ、噛み合わせが変化してしまうことがあります。
抜歯後に放置してしまうリスクに関しては、こちらのブログも是非ご参照ください。

噛み合わせの変化は、一日二日で起こるものではありません。
発育の過程だけではなく、大人になってからも年月をかけて、徐々に変化します。
よって、かなり進行してから当院にいらっしゃる方もいます。
動いてしまった歯は、勝手に元に戻ることはありません。


4,噛み合わせの治療について

当院で噛み合わせの治療をするというのは、前述でご説明させていただいた、「イーの位置」を「中心位」に近づける治療を指すことが多いです。
しかし一概には言えません。顎の位置に関しては、検査の結果をみながらご案内しています。
そして、理想の下顎の位置で、上下の歯が理想的な位置で接触する状態を目指します。

その方法は、
・「歯列矯正治療」で治す方法
・「被せ物や詰め物」で治す方法
などがあります。

また、お子様の顎の骨が正しい方向に発育し、将来適切な噛み合わせを獲得できるよう促す、
・小児矯正治療
・口腔機能改善コース
などもご用意しています。

噛み合わせ治療の最終的なゴール設定は、患者さんと相談しながら決めます。
審美面からも、機能面からも、整った噛み合わせを目指します。
整った噛み合わせは、全部の歯牙に咬合負担を分散します。

歯牙破折や過度な咬耗のリスクを減らすことができます。
そして、噛み合わせの治療により歯並びも改善するため、最終的にメインテナンスしやすい(磨きやすい)お口の中になります。
歯周病や虫歯のリスクも減るのです。


5,治療前の「口腔内全体検査」の重要性

さて、沢山お話をさせていただきましたが、当院が重要視する検査に、治療前の「口腔内全体検査」があります。
X線写真やCT撮影に始まり、詳細な写真撮影、模型採得、顎位記録(フェイスボウという機械を使用します)、中心位採得など、詳細な記録を作成いたします。
そして模型を「咬合器」といわれる機械にセットし、諸々のデータを確認します。
顎の位置の精査をする場合は、必ずご案内をしています。
この検査をせずに治療をすることは、地図無しで航海に出るようなものです。
もちろん、目的地に辿り着けるかもしれませんが、かなり遠回りをしている可能性もあります。
それだけれはなく、そもそもの出発点がわからなくなってしまったり、ゴールを見失うこともあるかもしれません。
私たちと一緒に、最良で、かつ無駄のない最短のゴールを探してみませんか?

さて、次回は、この検査の後の「治療計画」について書かせていただきます。

お読みいただきありがとうございました。

第4回:オーダーメイドの治療計画 へ続く

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