副院長の多田です。
お子さんのいる親御さんで、小児矯正に関心のある方は少なくないと感じています。
今回は小児矯正の内容やオーラルフレイルとの関係性について話します。
以前、話したオーラルフレイルと小児矯正がどのように関わっているのか、このブログを読んでいただければ理解できるかと思います。
今日のトピック
1)なぜ小児矯正が必要なのか
①小児矯正が必要な子供たちによくみられる特徴
②顎の骨と歯の大きさ
2)当院の小児矯正
3)小児矯正のメリット
4)小児矯正とオーラルフレイルの関係
1)なぜ小児矯正が必要なのか
①小児矯正が必要な子供たちによくみられる特徴
○食事中
当院で発行している28TIMES Vol.11に「副院長タダの視点」というコラムを書かせてもらったのですが、その中で小児矯正が必要な子供たちの食事中での特徴をある程度まとめているのでそちらも参考にしてみてください。当院ホームページから確認できます。https://www.28clinic.jp/kumagaya/28times/#times
・食事中に水をよく飲む
・早食い
・くちゃくちゃ音がする
・柔らかいものを好んで食べる
・片側だけ使って咀嚼している
・食事中に舌がよく見える など
これらは咀嚼や嚥下の機能が未発達なことを示唆しているのですが、そこには噛み合わせが悪い(歯並びが悪い)などの形態異常が潜んでいると考えられます。
○生活
・お口がポカーンと開いている
・姿勢が悪い(猫背) など
お口がポカーンと開いている状態と猫背(前方頭位/ぜんぽうとうい)には関連があるという論文報告があります。
また前方頭位と不正咬合(噛み合わせが良くないこと)にも関連があることが報告されていることから、姿勢など、お口以外の領域と関連があることがわかっています。
○体調
・慢性的な鼻づまり
・扁桃腺がよく腫れる
・唇がカサカサ
・口臭 など
これらもお口がポカーンと開いていることに繋がる内容で、つまりは不正咬合にもつながる事象と考えられます。
②顎の骨と歯の大きさ
「子供の歯並びが気になるから、小児矯正の話を聞きたい」という相談をよく受けます。
歯並びは、見てすぐに分かることなので、親御さんも気付きやすいですよね。
また、「この子は顎が小さいから」と親御さんから何度も聞く場面がありましたが、皆さん、下顎のことを話していました。
確かに下顎が小さいことはよくあるのですが、私が特に注目しているのは「上顎の大きさ」です。
実は、上顎が小さい子供たちがとても多いんです。下顎が小さく見える子供たちのほとんどは、下顎に比べて上顎が「さらに小さい」ことがほとんどです。
ここで歯の大きさと顎の骨の大きさのアンバランスについてもお話しします。
専門用語で「アーチレングスディスクレパンシー」といって、歯の大きさの総和と、歯が埋まっている歯槽基底の長さに差があるとガチャガチャな歯並びになったり、すきっ歯になったりします。
1983年の伊藤らの研究によれば江戸時代辺りから急激にこのディスクレパンシーの差が大きくなり、1980年の時点で60%以上が不正咬合だったという報告があります。
そして現代ではさらに増えているという論文報告も出ています。
ところで、なぜ上顎に注目すると思いますか?
それは上顎と下顎の成長のピークに違いがあるからです。
Scammonの成長発育曲線をご存知ですか?
それを❶リンパ型❷神経型❸一般型❹生殖器型の4種類に分けたものです。

上顎は❷神経型に近い成長発育をするので、6歳頃には80%程度が完成しています。
一方、下顎は❸一般型の成長発育をするので、ピークは第二次性徴期(思春期)頃になります。
例えば、上顎の成長がうまくいっていない状態でも6歳頃には成長はかなり終わってい流ので、思春期に下顎がもっと成長するとアンバランスはより顕著になるし、噛み合わせも狂ってしまいますよね。
そこで、当院の小児矯正治療は成長が良くない上顎を広げて形態を改善します。
2)当院の小児矯正
上顎の骨を広げるとはどういうこと!?と、びっくりされると思うのでわかりやすく説明します。
当院の小児矯正では様々な種類の装置を使用するのですが、その中の一つは上アゴを広げる装置です。
上顎の骨は正中(せいちゅう)に骨のつなぎ目があります。
イラストの黒い線の部分です。

成長のピークを迎える前なら、そのつなぎ目を開くことで骨を広げられます。
成長のピークは男児で15歳前後、女児で12歳前後です。
その後でも骨を広げることは可能なのですが、反応はどうしても落ちてしまいます。
装置で骨を広げるのですが、骨を開いてできた隙間には骨が作られ(仮骨延長)、理想的な上顎の大きさに形態を改善していきます。
上顎や歯の大きさは人それぞれ違うので使用する装置の種類や回数も様々ですが、大まかには2〜3回程度、骨を広げることが多いです。
「そんな骨を広げて痛くないの?」という質問もよくいただくのでお答えします。
「ほぼ痛みはありません。」
骨をどのように広げるのかというと、装着した装置(ご自身では取り外しはできません)を1日1回、ダイヤル部を回すだけです。
すると1回につき、約0.2ミリずつ骨が広がります。
回してすぐは鼻の下あたりに違和感が出ることはありますが、数秒から数分で消失します。
ここまで上顎のことを話しました。では、下顎は何もしないの?と思われるかもしれませんね。
下顎は骨のつなぎ目がないので骨を開いて大きくすることはできません。
ただ、ちゃんと噛める形というものがあるんです。
皆さん、自分の下の奥歯を見てください。
奥歯の噛む面は上を向いていますか?内側(舌側)に傾いていますか?
実は内側(舌側)への傾きが強いと、ちゃんと奥歯を使えていない可能性があります。
使えていたとしても噛む力は弱いです。
そこでちゃんと噛める形を作るために下顎には奥歯を真っ直ぐにする、整直(せいちょく)させる装置を使用します。
3)小児矯正のメリット
「歯並びが良くなる以外に何かあるの?」という声が聞こえてきそうですね。
実は当院での小児矯正は歯並びを改善する以外にも副次的な効果を期待しておこなっています。
①骨格のベースができる
骨を広げて、適切な大きさに改善します。
②歯並びを整えて、噛める形を作る
歯並びを主訴に来院される親御さんが多いので、ここは外せません。
③習慣性の口呼吸の改善
上顎の骨を広げることによって、鼻腔通気がよくなるという論文報告があります。
習慣的な口呼吸が体にとって良くないと、聞いたことがあると思います。
今回は口呼吸については細かくは割愛しますが、慢性的な(原因不明の)鼻閉は口呼吸の原因の1つなので、鼻で呼吸しやすい環境を整えるのも非常に大切な目的です。
ただ、環境は作っても鼻呼吸を習慣的にしていない場合は訓練が必要です。
④舌の機能を高める
舌の機能と歯並びには密接な関係があります。これが以下に話す、オーラルフレイルにつながります。
4)小児矯正とオーラルフレイルの関係
お口の機能を得るのは乳幼児期です。
イラスト(上顎です)のように、舌の動きや口周りの筋肉の協調によって適正な骨格や歯並びが作られます。

おおよそ5歳までで、お口の機能はほぼ完成します。
その後、成人期・高齢期になるに従って鍛えない限り、
お口の機能は少しずつ低下します。舌やお口周りの筋肉の圧力の間に歯並びがあります。
バランスが崩れていると、やはりバランスの崩れた歯並びになります。
不正咬合がある場合は、何かしらのアンバランスが潜んでいると考えて間違いありません。
乳幼児期であれば、成長発育の観点から舌やお口の機能の獲得に力を注いだほうが有益ですが、6歳を過ぎていると、途中でも話したように上顎の成長はあまり見込めません。
そこで小児矯正により、骨格のベースを作る必要があります。
乳幼児期に獲得した舌やお口周りの機能は適切な介入が無ければ、改善することはありません。
むしろ、機能に問題があることすら知らない方がほとんどです。
乳幼児期に得た機能は成人期〜高齢期にかけて少しずつ衰えていきます。
では、乳幼児期に高い機能を得た場合と、得られなかった場合では高齢期にどちらが咀嚼や嚥下に問題を抱えずに済むでしょうか?
答えは明白です。
当院でおこなっている小児矯正の目的は
・骨格のベースを作ること
良い形がないと良い機能が付いてこないため
6歳以降では上顎の骨格の変化が乏しいため
・改善した形に機能がついてくるよう訓練する
当院では「スマトレ」という機能訓練をおこなっています。
これは小児だけでなく、咀嚼や嚥下機能の維持のために高齢者にも有効なプログラムです。
舌やお口周りの機能異常が起きている場合、積極的な治療の介入が必要です。
では、機能異常が起きないようにするためにはどうすればよいのでしょうか。
次回、フレイルを予防するためのお話をいたします。
お楽しみに! ではまた!