最新のう蝕(虫歯)病因論

皆さん、こんにちは28CliniC副院長の多田です。

突然ですが、質問です。
「虫歯になったことはありますか?」
「虫歯の治療をするために歯科医院に行ったことはありますか?」

平成30年度学校保健統計速報では小児の虫歯の本数は過去最低となっていますが、成人の方の多くは、一度くらい虫歯の治療経験があると思います。

虫歯治療の経験がある方は、どのように感じましたか?
麻酔が嫌でしたか?
歯を削る音が怖かったですか?
何度も通うのが面倒でしたか?

どれも多くの方から寄せられる声です。

でも想像してみてください。
虫歯にならなければそんな思いをする必要はないですよね。

そこで、今回は【虫歯の病因論】について深掘りしてお話しします。
虫歯のことを深く理解できれば、虫歯になるリスクを避けられるかもしれません!

虫歯になる原因をご存知ですか?
歯磨きの上手い、下手ですか?
甘いものの食べすぎですか?

正解は全て○だし△でもあります。

なんだかフワッとしていますね…

でもこれは事実で、虫歯の予防に明らかに効果があるのは【フッ化物(フッ素)】だけなんです。
その他の歯磨きをしっかりする、甘い物を控えるなど色々ありますが、絶対に予防に効果があるという明確なエビデンス(医学的根拠)は、実はありません。

しかし!
歯磨きしないでプラークだらけなのが良い筈はないし、プラークが無ければ虫歯には絶対になりません。
そして、砂糖を摂り続ける習慣も口腔内が酸性になるので、食事や間食の習慣などもとても重要です。

今、話に出てきたプラーク(デンタルプラーク)から病因論をお話しします。

デンタルプラークは口の中の細菌の主な生息場所で、バイオフィルムともいわれる細菌の集合体です。
しばらく掃除しない排水溝がベタベタしてくるのと同じ状態です。
デンタルプラーク1gあたりの細菌数はなんと、10の11乗 CFU/mlです。
驚くべき数値ですね!
(CFUというのは細菌を培養し、できたコロニーの数です。)
これは糞便1g中の細菌数よりも多いんですよ。

プラーク内は細菌にとって非常に快適な場所で、抗菌薬などの薬剤では破壊できません。
ですので、歯磨きなどで機械的に除去する必要があります。

虫歯の病因論は昔から様々なことが言われてきました。
❶【非特異的プラーク仮説】
❷【特異的プラーク仮説】
これらが代表的です。

❶【非特異的プラーク仮説】
プラークの量が多いほど虫歯ができやすいというもので、プラーク中の様々な細菌の働きによって虫歯ができるという説です。

❷【特異的プラーク仮説】
虫歯の原因となる細菌、ミュータンスレンサ球菌やラクトバチラス菌が原因と考える説です。
1924年にクラークが虫歯からレンサ球菌を分離し、Streptococcus mutans(ストレプトコッカス ミュータンス)と名付けました。
1960年にはカイスが無菌飼育動物に特定のレンサ球菌(mutans streptococci)を感染させると虫歯ができることを実験的に証明しました。

ここから虫歯は、
①宿主と歯
②微生物
③食餌性基質
さらに
④時間
これら4つが重なり合うと虫歯ができると考えられてきました。

また、感染症に関して「コッホの原則」というものがあります

1.特定の伝染病になった個体からは,特定の病原微生物が必ず発見される
2.その病原微生物が分離,同定される
3.それを純粋に培養したもので原病が再現できる

しかし、現在では、虫歯はミュータンスレンサ球菌が絶対に存在していると言えなくても発生することがわかっています。
さらに、ミュータンスレンサ球菌がたくさん存在していても虫歯にならないことがあることもわかっています。
つまりは、特定の菌が虫歯を発生させるわけではないので、虫歯は感染症には当てはまらないことになります。

そして、最新の病因論がこれです。
❸【生態学的プラーク仮説】

これは、どのような考え方なのでしょうか。

口腔内の常在細菌が糖質の頻繁な摂取によって、プラーク中に酸を産生します。
するとpHは中性から酸性に変化し、酸に耐えられない細菌は減少し、酸に強い細菌だけが増加します。

つまり甘いものを食べ続けると、常在菌が環境の変化で酸を出すようになって、酸に弱い菌が少なくなった結果、酸に強い菌だけがどんどん増えて、虫歯ができやすくなるという考えです。
ですので、特定の細菌が虫歯を作るというものではありませんし、虫歯が感染症とは考えません。

歯科衛生士 生態学的プラーク仮説で変わるカリエスコントロール. クインテッセンス出版 vol.43 2019 山田翔著書より改変

ここで皆さんの心の声が聞こえてきそうです…
「そんな菌のこと言われても…じゃあ、虫歯にならないためには結局何すればいいの?」と…汗

答えは単純です。

・プラークを徹底的に除去する
・食習慣を改善する(甘いものを控える)
・間食の回数を減らす
・フッ化物配合の歯磨剤を使用する
・フロスなどの補助器具を正しく使用する

これらが挙げられますが、詳しくは次回のブログでお話しします。
お楽しみに!

参考文献Demonstration of the etiologic role of streptococci in experimental caries in the hamster.J AM Dent Assoc 1960:61:9-19.Fitzgerald RJ, Keyes PH.
Are dental diseases examples of ecological catastrophes?
Microbiology 2003;149(Pt 2):279-294. PD Marsh 

歯科衛生士 生態学的プラーク仮説で変わるカリエスコントロール. クインテッセンス出版 vol.43 2019 山田翔
Dental caries third edition :Wiley-Blackwell, 2015, Ole Fejerskov, Bente Nyvad, Edwina Kidd

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