院長の野上です。今回のテーマは口腔外科です。
私は東京歯科大学を卒業して国家試験合格後すぐに口腔外科に残りました。
そこで2年間の研修がスタートし、私の歯科医師としての礎があります。
その口腔外科をいくつかのテーマに分けて記していきます。
皆さんは口腔外科と聞いて何を想像されるでしょうか。
口腔がんの手術?
親知らずの抜歯?
顎(顎変形症)の手術?
インプラント?
歯の移植?
顎関節症?
全部正解です。
しかし、開業医でできることは限られています。
口腔がんの大掛かりな手術や顎の骨を切る手術はオペ室で全身麻酔で行います。開業医ではとてもハードルが高く大学病院クラスでないと手術できません。
親知らずの抜歯も開業医では手術しないところが増えています。
まずは今回のテーマである口腔外科の歴史から。
紐解くと日本に歯科が入ってきた経緯は以下の通りです。
■中国を中継し漢学によるもの
■外国人、殊にポルトガル人、オランダ人によっていわゆる南蛮医学あるいは蘭医学の一科として渡来したもの
■渡来した外国人歯科医師によって直接わが国に紹介されたもの
■外国に渡り日本人が歯科医術を修得し、帰国後わが国に紹介したもの
の4つであるといわれています。
とくに、外国人ではシーボルトのように外科に長じたものは外科的歯科処置したといわれ、これらの洋方医術が近代歯科医学のスタートです。外国人歯科医師では、W.C. イーストレーキが1860年(万延元年)横浜に来たのを最初としているようです。
1870年(明治3年)、新政府は「医学取り調べご用掛」の諮問を受けて、ドイツ医学の導入を決定し、相手政府に指導者の派遣を要請しました。これに応えて翌年、早速ドイツより2人の指導者が来日し指導にあたりました。
こうしてオランダ医学からドイツ医学へとの移行が始まりました。
一方、幕末から明治維新にかけての日本の歯科医療は
1) 口中医 ( こうちゅうい )
2)開業歯科医
3)主に義歯を製作していた入れ歯師
4)主に抜歯をしていた歯抜き師
5)街頭で歯薬売りおよび抜歯などをしていた香具師(やし)
に分類できました。現在の歯科医師の分業化ともいえます。

歯科という名称は、大化の改新末期大宝律令の医疾令で、耳目口歯科と称されて以来、平安末期に口歯科となり、平安桃山時代に口中科に変わってから明治まで使用されていました。
わが国最初の歯科専門医 小幡英之助が1874 年(明治7年)発布の「医制」第37条に基づき、翌8年からまず、東京、京都、大阪の三府において「医術開業試験」が実施されました。しかし、医制には「歯科」という名称はなく「産科、眼科、整骨科及口中科」とあり、一専門医として「口中科」が明記されているだけでした。
すなわち、当時は、医師・歯科医師という身分制度はなく、口中専門の医師として扱われ、医師は医歯一元制を採用していました。
このように最初は医科の中の歯科でありましたが、専門性がより必要ということで歯科が独立して国家資格となった訳です。
少し話が逸れましたが口腔外科に戻しましょう。
口腔外科学会のHPを見ますと
・口腔外科とは
口腔(こうくう:口のなか)、顎(がく:あご)、顔面ならびにその隣接組織に現れる先天性および後天性の疾患を扱う診療科です。
この領域には歯が原因となるものから癌までさまざまな疾患が発生します。また交通事故やスポーツなどの外傷、顎変形症ならびに唾液腺疾患などの外科的疾患のほかにも、口腔粘膜疾患、神経性疾患、口臭症などの内科的疾患も含まれます。この領域の異常は、食事や発音・会話がうまくできないなどの機能的な障害に加えて審美的な障害も生じます。治療により口腔・顎・顔面全体の自然な形態や機能が回復すると、顔全体がいきいきとし、健康的な美しさを取り戻すことができます。そのお手伝いをするのが口腔外科です。
とあります。
虫歯や歯周病の治療以外を診る診療科といったところでしょうか。
以上口腔外科の歴史をダラダラと書き記しましたが、昔は精密に削る機械や、詰める材料、そもそも麻酔というものが無く、歯が痛くなったら痛みを我慢して抜いておしまい、もしくは入れ歯を入れる程度しか歯科治療ができませんでした。
近代になって歯科が細分化されましたが、昔は歯科=口腔外科ということでした。
次回以降は以下のテーマで連載していきます。
・親知らずの抜歯
・歯の移植
・インプラント
・骨の移植、造骨
・歯肉移植
・歯周病の手術
・嚢胞の摘出
・顎骨腫瘍の切除
・粘膜疾患
次回もお楽しみに。
参考文献
■今田見信:開国歯科医人伝、 1-6、68-81、医歯薬出版、東京、 1973 .
■谷津三雄:医歯薬史雑録、6-7、医歯薬出版、東京、 1992 .
■榊原悠紀田郎:歯記列伝、26-29、クインテッセンス出版、東京、 1995 .
■口腔外科学会HP https://www.jsoms.or.jp/public/kouku_geka/