皆さん、こんにちは。
28CliniC 熊谷院 副院長の多田です。
前回は虫歯の病因論の変遷についてお話ししましたが、マニアックな内容で伝わりにくかったかもしれません…汗(前回の記事はこちらから)
今回は虫歯にならないために具体的に何をすれば良いのかを5つに絞ってお話しします。
虫歯にならないための5つの習慣
- プラークを徹底的に除去する
- 歯間ブラシやフロスなどの補助器具を正しく使用する
- フッ化物配合の歯磨剤を使用する
- 食習慣を改善する(甘いものを控える)
- 間食の回数を減らす
1.プラークを徹底的に除去する
2.フロスなどの補助器具を正しく使用する
プラークが無いところに虫歯はできません。
前回のブログでお話ししたようにプラーク内の常在菌が酸を産生しpHが酸性になることで、酸に弱い菌は死滅し、耐酸性を持つ常在菌が生き残ることで虫歯が発生すると考えられているので、そのプラークが無ければいいのです!
とは言え、セルフコントロール(自分での歯磨き)には限界があります。
小規模研究ですが、いくつか論文を挙げます。
○臨床的に正常な歯周組織と正常歯列を持つ男性36人、女性6人の合計43 人が被験者になり7種類の歯ブラシを用いて様々な磨き方を行なった結果、プラークの除去率は55.2%〜75.2%だった。
(日歯周誌 第18巻1号 13〜31 新井高 歯ブラシとブラッシング方法の相違による歯垢除去についての比較 )
この論文によると、歯ブラシの種類でプラーク除去率が変わるということですね。
○32歳から56歳までの合計10名
歯ブラシだけの歯磨きでは歯と歯の間のプラークは58%しか除去されなかった。
歯間ブラシとの併用で95%、デンタルフロスとの併用で86%だった。
(日本歯周病学会会誌 1975年17巻2号 p.258-264 Interdental BrushとDental Flossの 清掃効果について)
上記の論文を見ると歯ブラシと歯間ブラシを使えば誰でも歯と歯の間のプラークを95%も除去できると考えがちですが、現実はそうはなりません。
と言うのも、ブラッシングの上手い下手でプラーク除去率に差が出てしまうからです。
歯ブラシとの種類とブラッシングの習熟度が、プラーク除去効果にどのように影響するかを調べた研究があります。
○5種類の特徴的な歯ブラシを用いてブラッシング習熟度が異なる2群
(歯科医師10名、ブラッシング指導を受けたことがない外部ボランティア10名)で比較検討を行なった結果、ボランティア群では、どの歯ブラシを使用してもプラーク除去率は低く、差は見られなかったが、歯科医師群ではどの歯ブラシを使用しても、プラーク除去率はボランティア群より高く、使用した歯ブラシによってプラーク除去率が異なっていた。
特に、毛先が歯面に到達しやすく適正なブラッシング圧がかか りやすいように形態が工夫された、操作性の良い歯ブラシのプラーク除去率が高かった。
以上により,習熟度が異なるとプラーク除去に効果的な歯ブラシも異なることが示唆された。
(日歯周誌 63(1):1-10,2021 プラーク除去効果に影響する因子について ―歯ブラシの種類,ブラッシングの習熟度の比較―)
つまりは、歯磨き指導を受けていない方が、歯磨きをしてもプラーク除去率は低いので、歯科医院でちゃんとしたブラッシング指導を受け、かつ自分にあった歯ブラシを使用することで、セルフケアではプラークをしっかり落とせる可能性があるということです。
3.フッ化物配合の歯磨剤を使用する
現在では、虫歯予防にフッ化物(フッ素)が有効なことは疑いがないところですが、1980年代後半までの日本ではフッ化物への意識は現在とはかなり違ったようです。
例えば、フッ化物配合歯磨剤の市場占有率は1980年代後半までなんと10%程度でした。
それが2015年には91%まで上昇しました。(公益財団法人ライオン歯科衛生研究所 調べ)
その他、何が変わったのでしょうか。
まとまった資料を以下に添付します。

ブラッシング後のうがいは少量の水で一回のみ。
フッ化物をお口の中にあえて残すことで虫歯の予防効果を高めます。
私が子供の頃(1980年代)には「しっかり何度もブクブクゆすぎましょう」と言われていた記憶がありますが、現在では随分と変化しましたね。
4.食習慣を改善する(甘いものを控える)
5.間食の回数を減らす
一般論で言えば、砂糖を含む食品を多く摂取すれば虫歯は増えることは現代では常識です。しかし、昔はその情報すら無かったのです。
1954年に発表されたスウェーデンの論文で、436人の被験者に対して、食事に糖質、又は毎日同じ間食を摂取させて虫歯の発生を5年間観察した研究があります。(現代ではこのような研究は倫理的にできません)
結果、間食として砂糖を摂取すると虫歯の活動性が高くなることが世界で初めて証明されました。
また、粘着性の高いものは特に虫歯の活動性が高く、摂取量にも関連がありました。
(The Vipeholm dental caries study; the effect of different levels of carbohydrate intake on caries activity in 436 individuals observed for five years
Acta Odontol Scand. 1954 Sep;11(3-4):232-64. doi: 10.3109/00016355308993925.)
食事の糖質よりも、「間食として甘いもの」というのが、気になるポイントです。
食事で糖質を摂取して虫歯にならないわけではありませんが、食事の場合だと、様々な食品をしっかり噛むことで唾液量が増えたため、間食よりも虫歯のリスクが減ったのだと考えられます。
まとめると、【食事より間食で甘いもの(特に粘着性のもの)を何度も摂取すると虫歯のリスクが高くなる。】ということです。
ちなみに『甘いもの』とは、砂糖のことだけでなく、他にはご飯、パン、小麦粉、イモ、果物、はちみつ、牛乳なども含まれるので注意しましょう。
たまに患者さんから「おせんべい」は大丈夫?と聞かれることがありますが、残念ながらおせんべいも糖質です。しかも歯にくっ付いて残りやすいので虫歯には要注意です。
そして特に気をつける必要があると考えているのはジュースです。
果物をそのまま食べるのと、ジュースにして飲むのとでも虫歯のリスクが変化します。
果物をそのまま食べる場合では、唾液が出ることで虫歯のリスクは低減されますが、ジュースは口の中に残りやすく、唾液も十分に分泌されないため虫歯のリスクは高くなるので気をつけてください。
いかがでしたか?
虫歯のことが少し分かってきましたよね?
しかし、勘違いしてはいけないのは、虫歯は複合的な理由が原因で起こる多因子疾患であることです。
今回、紹介した内容が全てではありません。
上記の5つを実行すれば、絶対に虫歯にならないというわけではありません。
以下の図は虫歯の原因だけを表したものではありませんが、非常によくできているので参考にしてください。

今回は虫歯にならないために、ぜひ実践してほしい5つの習慣をお話ししました。
次回は虫歯になってしまった場合、どのような基準で切削介入(削る治療)をするのかしないかの判断基準についてお話しします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。