奥が深い、歯の移植

こんにちは。
院長の野上です。
引き続き口腔外科のテーマでお伝えしてまいります。

今回は『自家歯牙移植・再植』

「自家歯牙移植・再植」は、一度抜歯した歯を新しい場所又は、同じ場所で機能させる治療法です。

現在はインプラント(チタンやセラミックの人工の根を埋入し、その上に人工の被せ物を接続させて歯としての機能を回復させる方法)が一般的になりつつあるため、「移植」はあまり聞き馴染みのない単語かもしれません。
しかし28CliniCにおいて、移植はとてもポピュラーな治療です。

自家歯牙移植は1950年くらいから歯科診療に取り入れられましたが成功率はとても低く暫間処置(急場凌的)に近かったようです。
現代も手術方法や術者のテクニックにより成功率は大きく変わります。また、全ての歯科医院で移植・再植治療が受けられる訳ではありません。

なぜ成功率が高くないのか

一番のポイントはドナーとなる歯の周囲に存在する歯根膜呼ばれるコラーゲン線維の状態を正確に把握することです。このコラーゲンが傷ついてダメージを受けていると移植・再植は不成立となってしまいます。

歯は骨の中に埋まっています。その骨と歯をつなぐ組織が「歯根膜」です。
この歯根膜は歯の根の全体を覆うように存在し、その中には再生能力の高い細胞もたくさん含まれています。
活性化した細胞では骨をつくる細胞(骨芽細胞)や、歯ぐきと骨が結合するのに必要な細胞(セメント芽細胞、線維芽細胞など)が通常の6倍以上の勢いで増殖します。この結果、歯を支える組織(歯周組織)も再生し、移植した歯と周囲の骨をつなげられるというメカニズムが働き、歯根膜の中の再生能力の高い細胞の存在によって、歯の移植・再植は実現します。

もちろんこれだけが原因ではありません。
・プラークコントロール(細菌の数の状態)
・移植のタイミング(抜歯直後か珍旧性か)
・術者のテクニカルエラー
・移植後の固定の状態
などなど
様々な理由で移植の成功率は左右します。

移植の価値とは

先程お伝えしたように、移植の成功率はさまざまな理由によって変化します。
時間と費用をかけて成功率の高くない移植をするよりインプラントでいいじゃないか?という意見を伺うこともあります。
もっともなご意見です。

ですが、次のレントゲンを見てください。

移植前の状態です。
年齢は18歳、左下一番奥の歯が親知らずです。
その手前の歯は神経を抜いて内部に虫歯と根の先端に嚢胞(膿の袋)があり問題があります。
この神経のない歯を残すより親知らずを移植した方がこの患者さんの人生に大きなメリットがあると考え移植に踏み切りました。

移植当日

移植半年

移植1年半

移植2年半

移植8年

この歯は神経が生きた状態で口腔内に存在しています。(歯の根が未完成の場合は神経が回復する可能性が高いです。)

どうでしょうか。もし元々の歯を再治療する道を選択していたら…。
元々の歯を再治療する方法と、移植する方法。永続性を考えた時にどちらが有利でしょうか。歯科医師の方でなくても、一目瞭然かと思います。

もう一症例をご紹介します。
この患者さんは16歳単身でアメリカに留学しました。留学中に虫歯の痛みに我慢できず英語もまだ上手に話せなない状態で現地の歯科医院を受信したところ、アメリカの歯科医師の判断で右下の永久歯2本を抜歯されてしまいました。

左下の第二大臼歯も大きな虫歯で神経を取らなければならない状況でした。
・年齢も若いので(成長期終了していない)インプラントは適応外
・アメリカにすぐに戻らなければならない
・歯科恐怖症で寝た状態でまとめて治療しなければならない
諸々厳しい条件でしたが移植がベストでしたので以下のように

左下第一大臼歯に左下の親知らずを
左下第二大臼歯に左上の親知らずを
右下第二大臼歯に左下の親知らずを

3ヶ所同時つまり4本抜いて3本移植しました。

移植4ヶ月

移植半年

移植1年

移植2年半

見事に全ての移植歯の神経が回復し噛み合わせも問題なく機能しています。
現在22歳となり移植後6年経過しましたが全ての移植歯に問題はなく機能しています。

上記二症例は未成年の方でした。若ければ若いほど、成功率は高くなります。

さらに別の症例もご紹介します。35歳の方で若干成功率が下がる危険性がありました。

右下の第一大臼歯の根の先端に嚢胞が形成されており(膿の袋)根の治療を再治療するか移植するかでだいぶ悩みました。
ですが親知らずは無傷の状態でしたのでダメージを受けている第一大臼歯を残すより、この方の残りの人生のことを考えると根の再治療より移植に天秤が上がりました。

移植当日

移植歯を180度回転して移植しましたが完璧にフィットしました。

移植3ヶ月後
根が完成している歯でしたので神経の処置はしましたが歯はほとんど削らず小さい穴だけ開けて治療しただけで済みました。

この後6年が経過していますが問題なく使用できています。

このように適応症とテクニックさえあれば移植の可能性は無限大となります。
論文に発表されているように、
「移植した歯が抜け落ちない」「移植した場所にしっかりと留まっている」という観点でいえば、歯の移植(自家歯牙移植)の5年生存率は90 % (Tsukiboshi M, 2002)です。
インプラントの5年生存率は95 % (Fugazzotto et al, 2004)と発表されています。

ですが、私の経験則では移植でも98%以上の5年生存率は確保できています。
歯を失った際にドナーさえあれば第一選択肢として移植を検討した方がいと思います。

移植が適応可否は幾つかの判断基準があります。
・口腔内の菌の感染状況
・ドナーの有無、ドナーがあれば根の状態
・移植サイトの状態、ドナーとのサイズ適合 など

まずは診察させていただき、CT撮影など検査を行って診断いたします。

歯を失わないための予防処置がとても大事です。
失いそうな場合、失った際には是非一度28CliniCにご相談ください。

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