神経付近の治療において大事なこと(歯髄の診察)

28CliniC南青山 副院長の柳です。
歯科治療のトリセツver.28CliniC お楽しみいただけてますでしょうか。
今日は神経付近の治療に関して、お話をさせていただきます。

神経付近の治療=大きい虫歯 ?
そう思われた方いらっしゃると思います。

今回は 深い虫歯の治療ではなくて 神経付近の治療 と書かせていただきました。
実は昨今、深い虫歯でなくても神経付近を治療しないといけないことが増えております。
今まで1本も虫歯を作ったことがない人も、急な神経の痛みに苦しむことがあります。
その原因は「破折」です。

「急に電撃痛のような痛みが走った後、冷たいものが沁みたり、あるいは何もしなくても痛みが出るようになった。」

このような場合は破折を疑います。

昨今増えていると書きましたが、少々語弊を招く表現ですので注釈を入れさせていただきます。
昨今、ようやく原因が破折であると分かるようになったのです。
拡大鏡や顕微鏡が普及したことで、裸眼では到底見えないような破折線が観察できるようになったからです。
痛みの理由が全くわからないとき、とりあえず徐痛を最優先させるために神経の治療(いわゆる、神経を取る、神経を抜く治療)を行うことも昔は頻繁にあったようです。
その中に一定数、破折が原因の歯牙もあったと思います。

ちなみに、「原因不明の痛み」でセカンドオピニオンでいらした患者さんの精査をしたところ、歯に破折線が見つかるケースも年に数例あります。

歯の神経を「歯髄」と言いますが、一度治療により除去した歯髄は二度と生えてきません(成長途中の永久歯を除く)。
だからこそ、理由なしに歯髄の治療は行いません。

神経付近の治療において一番大事なことは、「診査診断」です。

治療開始前に行う「歯髄の診査診断」の重要性

歯の中心部に歯髄腔と名付けられた空間があります。
その中には歯髄、血管、細胞などが封入されています。
歯髄腔の周りにあるのが象牙質です。
パイプが積み重なったような構造を持つ象牙質を通じて刺激が伝わると、歯髄が反応します。
ちなみに、歯髄はどんな刺激も「痛み」として受け止めます。
例えば冷たいアイスなどで知覚過敏の症状が起こるとき、どのように感じるでしょうか。
感覚を研ぎ澄ましてみてください。
周りの歯茎は冷たさを感じますが、歯自体は「冷たい」ではなく「痛い」と感じていると思います。
歯髄は痛覚しか持たずどんな刺激も痛みに変換してしまいます。
当院では歯髄の診断に2つの方法を用います。

1つ目は温度診です。歯に温度刺激を与え、痛みの誘発状態から歯髄の状態を調べる診査法です。温度診には冷温診と温熱診があります。
当院では冷温診のみを行います。
健康な歯は温度刺激を与えても痛みが生じにくいと言われています。
もし痛みが生じたとしても、刺激を除去した段階ですぐに痛みが寛解するのも健康な歯の特徴です。

歯髄が炎症を起こしている場合、冷刺激で痛みが誘発され、刺激を除去した後も数秒間痛みが継続します。
この持続的な痛みが歯髄が炎症しているか否かの鍵となります。

当院では冷温診としてGC社のパルパーを用いています。パルパーはエアゾールを主成分とした冷却材です。パルパーで冷却し氷状になった小さなスポンジを歯牙に当てて検査を行います。

ちなみに、さらに悪化すると温熱で痛みが憎悪し、末期には冷刺激によって痛みが寛解するといった特徴が見られるようになります。
温熱での刺激は問診により確認します。
なんで温熱を使用したテストを行っていないかといいますと、歯はどんなに冷やしてもダメージはありませんが、熱を与えすぎるとその検査自体が歯にダメージを与えてしまう可能性があるからです。
本当に必要な時だけ、使用しています(歯髄も中の細胞も血管もタンパク質でできています、熱に強くはない)。

2つ目は歯髄電気診(EPT : Electric Pulp Test)です。
専用の機械を使用して、弱い電流を歯に通電し電気的刺激を与え、歯髄神経を刺激して誘発させた痛みや違和感の有無によって、歯髄の生死を予測します。

この2つの診査と、レントゲン撮影、問診(歯の痛みに関して)を丁寧におこなって、歯髄の状態と、根の周りの組織の状態を診断します。

確定診断がつけられない時は「待機的診断」とすることも少なくありません。
歯髄の治療は不可逆的です。様子を見ることが正解な時もあります。

正直にお伝えします。
X線写真や歯髄診査は確実に大きな助けになります。しかし、その虫歯が その亀裂が

  • どこまで進行しているか
  • 歯髄に到達しているかどうか
  • 歯髄は残せる状態かどうか

最終的は肉眼でみて、さらに治療して経過をみないとわからないことが沢山あります。

私たちは可能な限り残せる可能性を持った歯髄があれば、たとえ部分的であっても残すための治療を行います。

治療による二次感染から歯髄を守れ

歯髄は細菌感染によってダメージを受けます。
その原因として一番ポピュラーなのは「虫歯菌」による感染です。
つまり、深い虫歯の時です。

しかし、それだけではありません。
破折も立派な歯髄感染の原因の1つです。
歯が割れるとその亀裂に唾液が侵入します。唾液の中には沢山の細菌が生息しています。
虫歯菌以外の菌による感染も起こり得るのです。

つまり、お口を開いていただいて、そのまま神経付近の治療を始めるとどうなるでしょう?
周りには歯を削る機械から出る水と、唾液が入り混じった液体が溢れています。
その中には無数の細菌がいます。
そのような状態で治療をすると細菌は出入りし放題です。

どうしたら二次感染から守れるのでしょう?

次回は二次感染から守るための道具と、実際の治療についてお話しさせていただきます。
お読みいただきありがとうございました。

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